ヴィーガン男子の「Yuma」です。詳細なプロフィールは前回の『インタビュー記事 』にて。
今回は僕の過去の体験を基に、間違ったヴィーガンダイエットについてコラムという形でご紹介します。ヴィーガンの方なら共感していただける部分もあるかもしれません。是非最後までお付き合いください。
“嫌でも痩せる。なぜなら太るようなものを食べられないからだ。ダイエット成功までの最短ルートはヴィーガンである!!”
このような暴力的な発想からヴィーガンとしてダイエットを始めた僕。
“とにかく野菜、とにかく低カロリー。”
この安易な考えが間違いだと気付けなかった19歳の夏。
厳密にいえば、僕はダイエットのためにヴィーガンを始めたわけではなく、ヴィーガンを始めたのが先で、その後にダイエットを決意という流れだったが、始めたのはほぼ同時期。そのため、ヴィーガンとしての知識を何も持たずにいきなりヴィーガンダイエットを開始。当時の自分を恨めしく思わない夜はない。
エピソード① 『人参食べて、生きていく。』
ヴィーガンとしてダイエットを始めるにあたり
今後、主に取り入れていく食材と、それらの限られた食材を飽きずに摂取し続けるための調理パターンを確保するため、ノートを開きペンを固く握りしめた初日。当時の僕にとってこの作業は今後の人生を大きく左右する分岐点。(になるはずだった。)
無い知識を無理にふり絞る。
マクロビオティックとヴィーガンは同じなのだろうか?
マクロビをやっている人は玄米を食べるはず。
ならばヴィーガンも白米を食べないのか?
今後の野菜中心の生活で、使えるドレッシングは何があるだろう?
シーザードレッシングは当然ダメ。
青じそドレッシングにもホタテとカツオが使われている!?ヴィーガン非対応なのか!
なら僕は一体何なら食べられるのだろうか。
小一時間無駄に脳みそを疲弊させて収穫はゼロ。部屋で独り、白紙のノートをにらみ続けて満身創痍。
仕方なく予定を変更し、必要な情報が揃い、綿密な計画を立てられるようになるまでは“これなら確実に食べられる”というモノを食べ続けるしかないと腹をくくる。
近所の【安さの殿堂 ドン・キホーテ】には青果コーナーがあったため迷わず直行し“お財布に優しくカラダに嬉しいうえに調理が簡単な色の濃い野菜”を探して店内を東奔西走。
候補①:ピーマン
→生で食べられるのか?量が少ない割には高い、種取るのが大変そう
=却下
候補②:キャベツ
→色が薄い、量があると見せかけて火を通すと消えてなくなる
=却下
候補③:ブロッコリー
→食べ方に見当もつかない
=却下
候補④:人参
→色が濃い、安い、生でも加熱してもイケる
=採用!
この時、僕は決めた。「人参食べて、生きていく。」
エピソード②『自由の獲得』
人参の発見により午前中の愚行を帳消しにしてもなお余るほどの達成感を全身で感じながら、気づけば夕方。
人参4本と醤油1リットルを部屋に招き入れさっそく夕飯づくりだ。
まさかのこの日最初の食事だったため凝った調理をする気力はなくそもそも人参と醤油のみで作る凝った料理は存在しない。
細切りにした人参に醤油を垂らして食卓へ。
いま当時を振り返れば、僕自身も常軌を逸していると思う。
だがこの時ばかりは、どこからともなく湧いてくる自信と希望が無知を凌駕していた。
“完全にヴィーガンであり、確実に痩せる。”
それは確信だった。
そして実際に食べてみるとこれがまた美味しい!
生の人参を醤油だけで深く味わった経験など思い出せる範囲でこれが初。人参の甘みやその奥にある微かな土の香り、そこへ醤油のコクが合わさって口の中で調和を取り、豊かな風味が鼻腔内で共鳴。
僕が感じたのは自由。僕が本当に必要だったのは”凝った調理や、調理パターンを増やして飽きが来ないようにする工夫”ではなく”素材そのものを真に味わう姿勢”だったのだ。そのことに気づけた時点で僕のヴィーガンとしてのダイエットは果てしなく自由。難しい細工は一切必要なく、ただその食材と向き合う時間を日々に内包すればいい。
“色即是空 空即是色”
先人たちよありがとう。自然法爾を説いたのは誰だったろう。思い出せないがとにかくありがとう。
僕は人参と醤油で悟りを開きかけ、同時に自由を獲得したのだ。
エピソード③『自由ってなんだ?』
日に3度、人参で食欲を満たす日々。
その後の研究により、人参の「切り方」を変えることで食感に微妙な変化が出て、味わいにもバリエーションが生まれるという驚愕の事実を突き止めた僕にとってダイエットなどもはや約束された未来。「いつ迎えるか」という時間上の問題でしかなくなった。
そんな僕が異常を感じ始めたのは人参生活が1週間を過ぎた頃。
食事が嫌で仕方がない。
人参を噛みしめれば噛みしめるほど気分が沈んでいく感覚に。
人参1本1本の微妙な味の違いや、切り方の変化による味わいのバリエーションに敏感だった僕はもうそこにはいない。いつ食べても同じ食感、同じ味わい。人参はどこまでもオレンジ色で、シャキシャキで、醤油味だった。
僕は無感動に人参を頬張り、義務的に咀嚼しながら思った。
自由とは、何なのだろうか。
翌日には症状はさらに深刻に。確実に空腹感を感じているのに、目の前の人参を食べようという気持ちが全く湧かない。
そして無性に甘いものが食べたい。
いつも通り人参を買いに行ったものの、店内で目につくもの、頭の中に浮かぶものは全てカロリー爆弾。「胸焼け待ったなし」の糖尿病最速コースを一直線に爆走したい衝動に駆られる。いったんドン・キホーテを離れ、こんなはずは無いと自分に言い聞かせて荒れ狂う呼吸を整える。
お店の入口、南国にいそうなカラフルな魚や謎にウツボが飼われている水槽を眺めて頭を冷やし
“甘いもの 食べたい 栄養不足”で検索。
検索結果を上から順に3つほど確認して辿り着いた答えは“タンパク質不足”。
至極当然、人参100gの中にタンパク質はたった0.6g。ゼロに等しい。甘いものが食べたいという欲望はタンパク質不足による身体からの悲痛な叫びだったのだ。すぐさま店内へ戻り“お財布に優しくとにかくタンパク質が摂れる植物性の食材”を探して東奔西走。
ヴィーガン対応でありながら高タンパクな食材とは。想像も付かない。
ちなみに”食品”ならどうか。上のフロアに移動してプロテインドリンクやプロテインバーの棚を調査するが、どれもこれも乳製品や卵が入っている。オマケにいいお値段、継続を考えると現実性を欠く。
下りエスカレーターで敗走しつつ、「タンパク質 食材」で検索。頼む、何か手がかりをくれ。
高たんぱく食材
・肉類
・魚類
・卵、乳製品
・豆類
豆類?!豆は植物か?!そうだ植物だ!
何という盲点。こんなシンプルな答えに気づかないなんて。
早速缶詰のコーナーへ。目指すは大豆の水煮缶。野菜コーナーを通り過ぎ、正面のお魚コーナーを左へ曲がって缶詰の売り場へ向かうそのすがら、目に飛び込んできたのは納豆。
納豆!!高タンパク植物発見!
僕が感じたのは自由。僕が本当に必要だったのは果てしなくオレンジ色でいつ食べてもシャキシャキの人参ではなくタンパク質を豊富に含んだ豆類だったのだ。そのことに気づけた時点で僕のヴィーガンとしてのダイエットは果てしなく自由。難しい細工は一切必要なく、ただ豆と向き合う時間を日々に内包すればいい。
天上天下 唯我独尊
先人たちよありがとう。自然法爾を説いたのは親鸞だ。思い出してよかった、改めてありがとう。僕は豆で悟りを開きかけ、同時に自由を獲得した。
3パック入りの納豆×3個を部屋に招き入れ、さっそく昼食づくり。
もちろん付属のタレは昆布だし仕様だ、抜かりはない。例によってこの日最初の食事だったため凝った調理をする気力はなく、そもそも市販の納豆のみで作る凝った料理は存在しない。
パックの中の豆をグルグルかき混ぜて食卓へ。
“完全にヴィーガンであり、確実に痩せる。”
それは確信だった。
食卓に着き、ここまでの波乱に満ちた軌跡を頭の中で反芻する。長い旅路だった。眼の前に置かれた、これから苦楽を共にする残りの納豆パックたちを眺め、これからのヴィーガンダイエットが希望に満ちている事を再確認。
納豆のパッケージ裏の成分表示をふと眺め、詳細を確認しておく。
食塩、昆布エキス、醸造酢、たんぱく加水分解物、梅酢、鰹節エキス、昆布粉末…..etc
鰹節エキス。
鰹節エキス?!
ヴィーガン非対応!!昆布だし仕様なのに!!
この絶望をご想像いただけるだろうか。僕はヴィーガンになったが故に、市販の納豆すら満足に味わう事を許されない存在になったのだ。
一部のヴィーガンは言うだろう。
「付属のタレは使わずに家にある調味料で食べればいいじゃないか。」
気持ちはわかるが、一人暮らしの生活の中で使われなかったタレの末路は廃棄だ。
ヴィーガンという選択は、食べ物を粗末にしてまで貫くべきだろうか。ヴィーガンライフはそんな犠牲や我慢が付き物なのだろうか。
食べられないと知った付属のタレの小袋を握りしめながら僕は思った。
自由ってなんだ?_______(完)
ここまでお読み頂いた皆様、お分かり頂けたでしょうか。流石に人参や納豆だけを食べ続けようとお考えの方は居ないと信じていますが、極端な偏り、過度な制限を設けたダイエットはヴィーガンだろうとなかろうと悲惨な結果をもたらします。読者の皆様には、痩せたいという思いが強いばかりに、いつの間にか健康を損なってしまい最終的には人の自由について思い悩むような哲学的苦痛を経験してほしくありません。
特にダイエットのためにヴィーガンを始めようと検討している方、ヴィーガンまではいかなくとも、健康やダイエットのためにとにかく野菜中心の生活を!と考えている方は僕と同じ哀しみに明け暮れることのないようにご注意ください。
ダイエットは極端と過度を避け、自分のペースで健やかに営みましょう。次回は僕が失敗から学び、マイナス8kgを実現したダイエット方法についてご紹介します。